長期投資をする上で、「複利」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。
特にiDeCoやつみたてNISAが普及したことでよりここ数年でより一層「複利」という言葉を耳にし、金融機関はこの言葉を言葉ごとく乱用して金融商品の販売に結びつけているような気がします。
実際に、かのアインシュタインは
「複利は人類による最大の発明だ。 知っている人は複利で稼ぎ、知らない人は利息を払う」
という名言まで残すほど、長期投資において複利の効果はとてつもない効果を発揮するのは事実です。
一方で、ここ数年で多くのシロウト投資家が資産運用を始めたことで「複利」の概念を正しく理解していないシロウト投資家が増えたものもまた事実です。
今回は、本来あるべき「複利運用」の考え方についてお伝えいたします。
目次
単利と複利の違いは何か
単利:利息を元本に組み入れずに、元本のみで運用していくこと
複利:利息を元本に組み入れ、元本同様利息にも利息をつけていくこと
複利を知るには、まず利息の概念を知る必要があります。
単利は比較的分かりやすいですが、受け取った利息は元本に組み入れず元本のみで運用することです。受け取った利息に付加価値がつきませんので、運用資本はいつまでたっても当初元本のみになります。
対して「複利」は、受け取った利息を元本に組み込むことで「利息が利息を生む状態」を作り出すことを言います。
元本100万円、年利率3%での運用
【単利】
1年目(元本+利息)=1,030,000円
2年目(元本+利息)=1,060,000円
3年目(元本+利息)=1,090,000円
:
20年目(元本+利息)=1,600,000円
【複利】
1年目(元本+利息)=1,030,000円
2年目(元本+利息)=1,060,900円
3年目(元本+利息)=1,092,727円
:
20年目(元本+利息)=1,806,111円
このような表記を見たことある方も多いと思います。
複利の特徴として、長期投資をすればするほど利息に対しての利息が大きくなり、その大きくなった利息にさらに利息が乗るため「雪だるま式」に利息が大きくなる特徴があります。
この特徴があるからこそ、金融機関は長期運用には複利運用がマストかのように言うのです。
ただ、この表記に何か違和感を覚える方も多いと思います。
おそらく、「そこまで増えていないんだけど。」と言う違和感ではないでしょうか。
複利運用は元本が一定であることを前提としている
その違和感は複利の成長曲線をしっかり理解していないが故に起こる違和感なのです。
上の単利と複利の差を見ると分かりますが、あくまで複利効果と言うものは「元本が変動しないor元本が上昇する」ことを前提にしています。
。逆に言うと元本の減少を加味していないため、上記の複利シュミレーションはあくまでも「元本と利率3%が20年間変わらないまま運用できた場合」にのみ達成されるわけです。
そして、この世界的な低金利下の状況で「元本と利率3%が20年間変わらないまま運用できる商品」はほとんどないことを理解しなければなりません。
長期下落局面では逆複利もありうる
複利のシュミレーションが原則元本の変動がないことを前提に作られているものということをお伝えしました。
仮に元本の変動があるものに対して無理やり複利の概念を持ち込んだ場合において(一般的には「再投資」と言う分かりやすい言葉で表しますが。)、仮に長期的な下落相場になった場合は元本+利息(再投資分)に対してダウンサイジングリスクがかかり、損失が損失を生む状態となります。
イメージできると思いますが、再投資しなければ当初元本のみの損失であったのが、再投資をすることで再投資分も損失が重なり、長期的に下落をすればするほど損失が雪だるま式に膨らんでいきます。
ただ、興味深いところですが通常長期投資においてはこの状態を悪とはしません。
長期投資は「長期的にマーケットが上昇するという希望的観測を前提とした運用」になるので、「再投資分は下がったところで安く買える。」という考えになり、今までの再投資分に対する損失には目を向けない投資家がほとんどです。
どのような商品であれば複利運用が成り立つか
複利効果がダイレクトに成り立つもの
・普通・定期預金
・ソーシャルレンディング
・ゼロクーポン債券
・利付債券 等
これら金融商品の特徴は、「原則満期に元本が戻ってくることがわかっている商品」です。
外貨定期などは別で為替リスクが発生しますので、あくまでも外貨建てであることが前提です。
この中でも、現状為替リスクを取らずに円建てで3%以上の運用ができるものは「ソーシャルレンディング」か「利付債券(長期で格付けが低め社債のみ)」くらいです。
複利効果がダイレクトに成り立たないもの
・株式
・投資信託
株式や投資信託は満期という概念が原則なく、価格下落リスクがあることから複利を表すグラフのような複利効果を教授することはできません。
また、大幅な価格の上昇による恩恵で複利効果以上のリターンが出る可能性もありますが、それは複利とはあまり関係がないところでのリターンになります。
2001年-2011年の日経平均の騰落を見ると、10年間で最大上昇率+40%、最大下落率は-42%を記録しており、約10年経過後当初日経平均18,937円であったものが10,352円にまで下落していることがわかります。
このような長期的な下落相場に陥る可能性のかる株式市場においては複利の概念はあまり役に立たないことがわかります。
複利と税金の関係とは
「円定期」「外貨定期」「ソーシャルレンディング」「利付債券」
=税引き後複利
ゼロクーポン債券
=税引き前複利
複利は本来受け取る利息を元本を組み入れることで成り立ちますが、利息の受け取り方によっても大きくパフォーマンスが変わってきます。
円定期預金や外貨定期預金、ソーシャルレンディング、利付債券は原則税引き後での利息の受け取りになります。
現状の税金が20%であったとすると、手取りの80%部分を元本に組み込む計算になりますので、税金分複利での運用効率は下落します。
しかし、米国ストリップス債券のようないわゆるゼロクーポン債は将来に渡り受け取るべき利息分をあらかじめ割り引いて元本に組み込んでおり、実際に利息として払い出していないので税金分を考慮していません。
税引き後利息を元本に組み入れての複利運用商品が多い中、ゼロクーポン債は将来に渡って受け取るべき利息100%分を割引いていますので複利運用効率としては他と比べて良いものになります。
ゼロクーポン債とは
将来に渡り受け取るべき利息分を元本からあらかじめ割り引いて運用する債券。利息を受け取らない代わりに割引された債券単価で購入することができる。
代表例:米国ストリップス債
まとめ
最近はつみたてNISAなどで長期投資を始めたシロウト投資家も多く、長期投資で積立をしていくことを複利運用と勘違いしている方や、投資信託の再投資型を複利運用と思っている方がとても多くいます。
オレンジ:無担保コールレート推移
青:基準割引率及び基準貸付利率
【出所】日本銀行 時系列統計データ検索サイト
過去の日本の金利水準を紐解くと40年前は今とは比較できないほど高金利水準であり、この約半世紀で本来定義する複利運用がいかに難しくなっているかがわかります。
しかし、ソーシャルレンディングやポイント投資、ロドアドバイザー等個人投資家の運用手法自体も半世紀前と比べて幅が広がっているのも事実です。
投信や株式のみに囚われず、ソーシャルレンディングや債券投資など様々なアセットクラスを組み込んだポートフォリオの構築をしていくことが、長期資産形成においてもっとも重要であることは間違いありません。